一度した決断について後から「こうしたら良かった」「こっちの方が良かった」と悔やんだことは誰にでもあります。
例えば引っ越しをするときに、業者に頼んで料金を支払う段になって「こんなに高くつくなんて」と驚いたこともあるでしょう。
そして後になって他の人に話したら「ぼったくられたね」なんて言われます。
引っ越しの料金設定には時期・業者によって大きなばらつきがあるのです。
こういった失敗・判断ミスを避けるにはどうしたら良いのでしょうか。
人が判断を下すときには常にバイアス(判断の偏り)・ノイズ(判断のばらつき)が入ります。
専門知識・技能を持って公平な判断を下すと期待される裁判官や医者も例外ではありません。
判断の正確さを射的の的で表すとこのようになります。
②や④では偏り(=バイアス)があって、③や④ではばらつき(=ノイズ)があります。今回はノイズがテーマです。
行動経済学の第一人者として有名なダニエル・カーネマンらが書いた『NOISE 組織はなぜ判断を誤るのか?(ダニエル・カーネマン他 著)』でも、1970年台アメリカにおける衝撃的な話が紹介されています。
偽造小切手の現金化で有罪になった2人の男についての判決事例です。
35.2ドルの偽造小切手で捕まった男に対して下された量刑は懲役30日だったのに対して、58.4ドルの偽造小切手で捕まった男に対しては懲役15年だったというのです。
同じ犯罪に対して刑の厳しさに大幅なちがいがありました。
判事によって量刑が変わることを『NOISE(ダニエル・カーネマン他 著)』では『量刑くじ引き』とまで呼んでおり、その原因として様々なノイズの存在を指摘しています。
「人の判断には常にノイズが入る」という事実を前提として対処法を身に着けることは、自分の失敗を予防して、他人のエラーにも気づき、損・ミスを減らすことにつながります。
ノイズの観点からその対処法を3つを紹介します。
以下、それぞれについて説明していきます。
目次
①ノイズが入ることを「当たり前」として知っておく
まず、「47都道府県の中で面積に関して島根県は何番でしょう?」という質問を一度考えてみてください。
おそらくはみなさん正解を知らないと思います。
「日本地図のサイズからこれくらいかな」とか、「人口は少なそうだな」とか、「あんまり身近じゃないからこれくらいかな」とか、「こないだ旅行で行ったばっかりだ」とか、「世界遺産で有名だ」などの連想から自分なりの答えを出したでしょう。
そして明日か一週間後にまた同じ質問を考えてみてください。たぶん違う答えになっていると思います。
この質問には絶対的な正解があるはずなのに答えるタイミングによって答えがばらつきます。つまりノイズがあるのです。
(ちなみに正解は19位でした。北海道 1位、鳥取県 41位、東京都45位、大阪府 46位、香川県 47位。参照:国土交通省 国土地理院 より。)
あるいは日本酒の品評会とか映画評論家とかでもばらつきがあるでしょう。
これらの分野では個人の趣味・嗜好が大きく反映されるので正解がありません。人によって意見が違うことは当たり前です。
またその時々の気分(泣きたい気分・笑いたい気分)・状態(お腹いっぱい・辛い物/甘い物を食べた後)によっても当然意見・感想は変わるでしょう。
しかし趣味・嗜好が関与すべきでない分野でもノイズは入り込みうるのです。
株式会社の売り上げ予想だとか、医者による病気の診断だとか、裁判官による量刑の判決だとか、採用面接による将来性の予測などです。
各分野においてガイドラインやプロトコルやアルゴリズムなどを利用して正確性の向上を図っていますが、システム化で対応できないケースも当然あります。
つまりは「人が判断をするとき(多かれ少なかれ)ノイズは入る」のです。
②友達や周囲の人にも意見を聞こう。人に相談できないなら一回寝てから考える
悩んで判断を下したときは周囲の人の意見を聞くことで自分のノイズに気付けます。
集合知あるいは集団的知性と呼ばれます。
周囲の人の意見にも当然ノイズが入っていますが、自分とはノイズの入り方が違うので、意見を統合することで正確性が上がります。
最近流行りのダイバーシティ―(多様性の尊重)という考え方もノイズの軽減に役立ちます。
多様な考え方を持つ集団が活発な意見交換を交わせばより一層正確性が上がります。
もし人に相談できない状況なら時間・日を空けて再度考え直しましょう。
これは自分の中に「群衆」を作ることを意味します。
他人に相談した場合と比べると、精度の向上具合は三分の一~十分の一程度とされますが、その場ですぐ判断するよりはマシです。
その時に「昨日の自分は間違えているはず。どこを間違えたかな?」という視点から考え始めると最終的に正確性が更に上がります。
③他の業者・専門家にも意見を聞こう
引っ越しで言えば相見積りを取りましょう。医者で言えばセカンドオピニオンを利用しましょう(ただし、普通の診察より無駄に高額になるので普通に他院へ紹介してもらうことをお勧めします)。
引っ越し費用の基礎となる料金は業者間である程度共通していると思います。
しかし繁忙期による追加料金設定は業者の気持ち次第でしょう。
相見積りをとることで業者の料金設定のばらつき(=ノイズ)に気付けます。
その中から安めの業者、あるいは平均的な価格の業者を選びましょう。
まとめ
「何事にもノイズがあるのは当たり前」という認識を持つことが一番大事です。
ある程度のばらつきは仕方ありません。
しかし、裁判の量刑の話でも見たように、実は思っていた以上にばらつきは影響を与えているのです。
今回の注意点を参考にして賢い選択・判断を行いましょう。
より詳しく学びたい人は『NOISE 組織はなぜ判断を誤るのか?(ダニエル・カーネマン他 著)』を是非読んでみてください。
具体的な事例や数値を多数含めて論理的に説明されています。目から鱗の視点でした。