「誤嚥性肺炎」って言葉を聞いたことはありますか?
医療関係・介護関係の方だったら誰もが知っていて、そして嫌いな言葉ですよね。
人ののどには気管と食道という2つの異なる管の分岐点があります。
気管は空気の通り道で肺につながります。食道は食べ物・飲み物の通り道で胃につながります。
食事などをしたときに食物は本来食道を通って胃で消化されます。
これは喉頭蓋という「ふた」がのどの所で気管の入り口をふさいで食べ物が気管に入らないようにしているからです。
だけどこの「ふた」がうまく働かなくて間違って食物などが気管に侵入して肺にまでいってしまう(誤嚥)と、異物として悪さをして誤嚥性肺炎になってしまいます。
元気な方でもたまにむせることがありますよね。
寝ぼけているときに水を一気に飲んだりすると特にむせやすいです。
この時は水が気管に入ってしまったり、「ふた」にひっかかってたりします。
ただ、ほとんどは反射的に咳き込むことで食道に押し戻されて肺にまではいきません。
むせた後にのどに違和感が残っている場合にはまだ気管の入り口に多少引っかかっているかもしれません。
ただ少量であれば肺に行ったとしても誤嚥性肺炎にまではならないのでご安心ください。
病気や加齢の影響で嚥下機能(「ふた」周辺の機能)が落ちてくるとうまく気管の入り口を塞げなくて誤嚥することが増えてしまいます。
咳き込んでちゃんと食物を押し戻せたら大事には至りませんが、のどの感覚が鈍くて誤嚥したのに全くむせない(不顕性誤嚥)場合や、腹筋が弱くて咳の力が弱い場合には特に肺炎になりやすいです。
誤嚥性肺炎を繰り返すと徐々に体力やのどの機能が落ちてしまい、口からご飯を食べるのが危険になってしまいます。
これを予防するための注意点7つを今回ご紹介します。
まずはさっそく一覧です。
◎首周りの体操
◎歯磨きをしっかりする
◎一口の量を少なくする
◎食事の姿勢
◎食事に集中する
◎食後30分は横にならない
◎食事の形を変える
ではそれぞれについて解説していきましょう。
目次
予防法①首周りの体操
首周りの筋肉を鍛えましょう。嚥下機能が改善します。
筋トレ的にするならば、仰向けに寝た状態で首だけ挙げて1分キープする、これを1日3回行う。
もっと簡便にするならば、歌ったり、おしゃべりするのものどの筋トレにつながります。
トランペットとか笛とかのような吹く楽器が趣味であれば首周りだけじゃなく腹筋も鍛えられるので誤嚥予防の筋トレとしては最適ですね。
予防法②歯磨きをしっかりする
口の中が汚いと誤嚥したときに肺炎になる確率があがります。
口の中のばい菌が肺に入って悪さをするからです。
歯磨きをしっかりしましょう。
舌磨き用の舌ブラシもおすすめです。
口腔ケアは非常に重要です。
誤嚥性肺炎で入退院を繰り返していた人でも入院中に口腔ケアをしっかり指導・導入することで肺炎の再発が減ったという人もいました。
予防法③一口の量を少なくする
高齢者ではかきこんで食べていて1食10分くらいの人がたくさんいます。
口の中がいっぱいな状態では食塊をうまくまとめられず誤嚥につながりやすくなります。
入院中に食事の様子を見ていてヒヤヒヤしてしまいます。
一口の量を少なくしてゆっくり食べましょう。
1食30分を目安にするといいと思います。
認知症のある方ではご自身で注意することができないので、スプーンを小さくするのも一つの工夫です。
予防法④食事の姿勢
食事の時には顎を少し引きましょう。
顎を突き出したような姿勢だとのどの筋肉が動かしにくくなってしまいます。
高齢な方だと首周り・肩回りの筋肉・関節が固まってしまっていて顎をうまく引けない場合があります。
その際にはまず首をグルグルと回すストレッチから習慣化してください。
予防法⑤食事に集中する
食事中は食事に集中しましょう。
食事中誰かとおしゃべりするのも楽しいですが、嚥下機能が落ちている場合は不意に誤嚥してしまいます。
特におしゃべりするときには気道が開くので誤嚥リスクが上がります。
おしゃべりするのは食事が終わってから、あるいは口から物がなくなってからにしましょう。
予防法⑥食後30分は横にならない
食後すぐに横になると胃の中の食物が逆流して気管に入ってしまうことがあります。
「食べてすぐ横になると牛になるよ!」とよく言われますが、誤嚥性肺炎の予防の観点でも少なくとも30分は起きておきましょう。
予防法⑦食事の形を変える
そもそも食事を飲み込みやすいものにしましょう。
一番飲み込みやすい形はゼリーとかおかゆみたいに口の中で一塊に纏まりやすく滑りのいいものです。
ゼリー状では食欲がわかないという場合には、あまり噛まなくてもいいようによく刻んだものにしたり、あんかけにしたり、おかゆと一緒にしたりするのもいいでしょう。
かぼちゃを煮込んでほどよく水気を含ませて柔らかくしたものとかはいい感じです。
逆にせんべいのように乾燥していて何回もかみ砕いて口の中で唾液を使って綺麗にまとめる必要がある食べ物は誤嚥しやすいです。
また、実は食べ物よりも飲み物の方が誤嚥しやすいです。
飲み物に簡単にとろみを付けられる商品(『トロメイク』明治)とかもあるので使ってみてください。
まとめ
どうだったでしょうか。
実践するには大変そうなものもあれば、簡単に始められそうなものもあったと思います。
おいしい食事は人生を彩る重要な楽しみの一つです。
口から食事が摂れなくなってしまうことは辛いことです。
いよいよ口からの食事が危険となれば経鼻経管栄養・胃瘻栄養・中心静脈栄養・末梢静脈栄養といった栄養摂取する代替手段はあります。しかしながらこれらにはどうしてもデメリットもあるのです。
また一度嚥下機能を失うと原因にもよりますが回復の見込みは乏しく、食事という人生の楽しみは生涯失われてしまいます。管につながれた人生は制限も増えて煩わしいものです。
「最近食事中のむせが増えてきていて気になる」という場合には食事を生涯楽しむためにも簡単なものからで良いので試してみてください。